研究概要


1.本当に大事なこと 2.指導方針 3.どんな研究をしているのか

1. 本当に大事なこと

 は自分の人生をどのように設計するか?です。単位に追いまくられてよく考えもせず講座を決めるのは サイコロ振って将来をきめているような感じです。そう感じない人はそれでよろしい。設計は自分でするものです。

 設計を現実に映す中で教育は大変な作業で、1人の先生が1〜2人を見るのが精一杯なはずです。私の講 座は年に3人以上は取れませんからできるだけ情熱ある人の参加を望みます。これはお互いの無駄を減らすためです。 共通の了解事項が大きく異なると理解は望めないものです。私たちの望む「情熱ある人とは?」ということを以下に 話します。

 現行のカリキュラムは卒業前の貴重な時間に、講座配属を通じて研究生活のさわりを体験します。これ が快適、と思える人はその講座が合っているのでよいでしょう。多くの人が能力も志望もありながら適応できないで 落ちこぼれて行くのが現状です。落ちこぼれるのは「怠けたい」人だけではなく、「適応できない」人が含まれると 私は認識しています。私見では、研究生活などおよそ世間とかけ離れていて、誰でもがそこで快適に生活できるもの ではない、ギャップがあればある意味で落ちこぼれるのは当然のように思います。やる気がすり減るのも分かります。 若い人は皆が器用ではないからです。既成の講座の中で疑問を抱える人、馴染めない人がやる気を取り戻したいとき に本講座を思い出してください。お役に立てるように教育の場所を提供致します。但し、信義の無い人、根っからの 怠け者は要りません。

 

2. 指導方針

 本講座は25 年に亘って高い業績を挙げ続けてきた実績ある講座です。研究テーマは「自然免疫」、この 解説は各論で致します。レベルが高いのですが、テーマを分かりやすく提示しますので、卒業までに多くの人が論文 を持てます。自分でやったような気分を味わえます。これは甘い、という批判もありますが、私は実験をした人がし た気分にならなければ研究を続ける動機にならないと思うので協力を惜しまないで来ました。研究に没頭しうる才能 は時に「変な」人格の人に備わっており、磨くと燦然と光ることがあります。しかし、論文作製はスタッフの協力な しにはありえません。少なくとも学生でできる人はまだ見たことがありません。教育は奉仕ですから個人が将来伸び ればよいでしょう。「変な」人が溢れるのも困りますが、講座に直接返ってこないのは仕方がないことだと思います。 一生懸命頑張る人は誰かが見ていていつか報われます。

 

3. どんな研究をしているのか

 私たちは生物が生まれながらに持っている自分と他人を区別する能力を研究しています。自分を「自己細胞」、他 人を「他細胞」と置き換えると自己・非自己識別能力、即ち免疫になります。免疫の担当細胞は微生物やがん細胞を 「非自己」と見分けて傷害する能力を持ちます。私たちは“どうやって非自己と見分けるの”という研究をしている わけです(下図)。尤もこんなことが分かろうと分かるまいと免疫細胞は日夜がんや感染を抑えている訳ですが。良 く分からない,と云う方は以下に科学用語で書きますからゆっくりご覧ください。

ヒトに本来備わる生体防御の機構(自然免疫)と感染症

 病原微生物は特定の宿主に病原性を発揮する。病原性は動物種と微生物の生来の約束事に見える。これを宿主の natural tropism と呼ぶ。どうして先天的な要因で宿主が決まり、病原性を惹起するのかを外から眺めていても分か らない。本講座ではヒトへの病原性を規定する分子要因を研究対象とする。ウイルス、細菌側の要因とヒト側の要因 があるが、主にヒト側の要因に興味がある。従ってヒトの遺伝子情報、蛋白質情報、細胞応答、遺伝子改変マウスな どを駆使して感染を科学する。この際ヒト以外の宿主に病原性があるか否かは大切な問題だがここでは問わない。

 本講座では動物由来のヒト感染症の発症と病原性に自然免疫のパターン認識レセプターがどのように関与するか を分子レベルで解析し、ヒト−病原微生物の先天的約束事(tropism) の解明を目指す。本講座からの情報発信として 1.微生物のレセプターが無いヒト細胞は感染を免れる、2.微生物がヒト細胞にインターフェロン(a/b)やサイトカイ ンを誘導するとヒト細胞は感染を免れる、3. 微生物が侵入しても細胞がソッポを向いた応答しかしないとき細胞は病 気になる、らしい。がこれだけで説明できるほど簡単ではない。また個体レベルで感染が誘起する応答は自己免疫や アレルギーを含めてミステリーが多い。

 これらの事象の解明はパターン認識レセプターとそれが誘起する細胞応答の理解なしには進まない。本講座はパ ターン認識レセプターの構造−機能連携を体系化することに研究の目的を置く。結果はtropism の基礎研究に留まら ず疾患の予防や感染対策へと広がりをもつ。

自己・非自己識別の分子構造の解析

 生体は遺伝子の起源が同一の細胞のみで構成される。同一でない細胞は原則として排除される。従って多細胞生 物は一般に同一性を確認し合う識別機構を内在する。魚類以上の現存種は、この識別機構のリンパ球を発達させ、免 疫系として確立している。この機構をかいくぐって異種細胞が侵入した場合、感染と呼ぶ。また故意に異種細胞を生 着せしめた場合、移植と呼ぶ。さらに自己細胞が同一性を放棄して増殖した場合、腫瘍と呼ぶ。免疫系はこれらの異 常事態を収拾し、原則的に同一の遺伝子を保存するように機能する。一方、侵入異物も宿主内で自己保存を計る。遺 伝子を宿主に溶け込ませる(genomic intereation)、潜伏感染や細胞内小器官として共存する(ミトコンドリア、ク ロロプラストなど)、免疫耐性(tolerance)を獲得する、など多様な生体防御の分子間反応がそこに展開される。細 胞外の微生物識別・シグナルレセプターとしてはToll-like receptorなど、細胞内ではRIG-like receptor, post-trans criptional gene silencing(PTGS)に関与する因子群、などが最近同定されつつある。RNAiもウイルスの宿主防御応 答の反映である。本講座ではこれらの生体防御反応と宿主免疫系を最新の手段とストラテジーを用いて解析する。さら に魚類以下から存在する免疫系(基本免疫 innateimmunity)に内在する原始識別系の知恵(その多くは未知である)に スポットを当て、生命の本質の一面にアプローチする。

参考資料



◇ヒトと地球の健康のために(ファルマシア, 2009)
◇アジュバントによる樹状細胞制御の分子機構と抗腫瘍免疫(実験医学, 27(14):2194-220, 2009)